感想とかそんなん

海外3DCG映画が好き ネタバレばっかり

トイ・ストーリー

バズ・ライトイヤーと、「飛ぶ」ということについて。

 

まず、アンディの部屋でバズがみんなに「飛べる」ことを証明してみせるシーン。ここでバズのメインテーマが流れる。パラパパラパパラパ…という、バズといえばこの曲みたいなやつ。ここでは運良く飛べたみたいになるが、ウッディは「かっこよく落ちてるだけ」と言う。それは確かにそうで間違いではないけど、バズは自分がスペースレンジャーであることに一分の疑いも持ってない。

ウッディは自分がおもちゃだと知っているし現実を見ているが、バズが生きているのはファンタジーの世界である。

 

次に、シドの家の階段でのシーン。小さい頃はこのシーンが悲しくてかわいそうで嫌いだった。バズはテレビのCMを見て自分にとっての現実を理解する。ここでは歌詞付きの「幻の旅」が流れる。ゆったりと切ない感じで始まる曲だけど、バズが一縷の望みをかけて2階から飛び立つことを決意したところから明るい調子になる。するとここでまた、あのパラパパラパ…のフレーズが一瞬だけ流れ、バズは輝く笑顔で空中へ。けれどおもちゃが飛べるはずもなく、落っこちて壊れてしまう。

過去の自信に満ちていたシーンでの音楽を挿入してほんの一瞬希望を感じさせることで、その後の落差、挫折感がものすごいものになる。そして「信じても空は飛べない」という歌詞でこのシーンは終わる。

ここの歌詞がすごく重いというか絶望というか、そんなこと言ってしまうのかという感じがする。

 

ディズニーの映画で「飛ぶ」ということは夢が叶うこと、ファンタジーそのものの象徴だと思う。ピーターパンでもダンボでも、アイテムとして妖精の粉やカラスの羽根は出てくるものの飛ぶのに最も大切なのは気持ち。つまり、「信じれば空を飛べる」というのが、ディズニーが示すファンタジーのかたちのひとつである。そのディズニーが配給する映画で「信じても空は飛べない」と言い切ってしまい、現実に叩きつけられるバズを描くというのは、めちゃくちゃ衝撃的なことだと思う。この絶望からどうやって立ち直ればいいのか。

 

最後の「飛ぶ」ところ、アンディの車に追いつくシーン。バズの背中のロケットで空中へ飛び立つが、火が消えてしまう。落ちる!というところでまた、「幻の旅」の冒頭のワンフレーズが一瞬流れて不安を感じさせるけれど、バズは翼を広げて「飛んで」みせる。ここでバズから出るのがウッディが過去に言った「かっこよく落ちてるだけ」という言葉。

 

バズは自分がただのおもちゃだと知って葛藤したり、自我を保てなくなったりもする。でもそれは自分の力で解決できるような問題ではない。でもそれが現実だから、なんとか折り合いをつけてやっていかなければならない。バズにとってこの状態を克服するのに必要なのは、飛べるようになることではなくて、飛べなくてもやっていける方法を見つけること。

飛べないけど、かっこよく落ちることはできる。それが、バズが悩んだ末に見つけた落としどころなんだと思う。

 

「信じれば夢は叶う」だけを見せるのではなく、「信じても夢が叶わないとき、どうするのか」を見せること。

おもちゃが動ける夢の世界を描き、その中で従来のディズニーにおけるファンタジーを壊してしまっておいて、その上でさらに新たなかたちで希望を与えてくれるというのがトイ・ストーリーの革命的なところだなと思う。